社団法人 吹田市歯科医師会
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平成18年度 第5回吹歯学術研修会 聴講報告
何が口臭治療を難しくしているか
平成18年6月23日(金)

 講師に大阪大学歯学部付属病院病院長、大阪大学大学院歯学研究科予防歯科学教室教授の雫石聰先生をお招きし、「何が口臭治療を難しくしているか」と題してご講演いただきました。
以下、聴講報告です。

 大阪大学歯学部付属病院で口臭外来を開設して6年ほどになり、以来1000例ほどの患者の診療に当たってきた。口臭は口の悩みの中で4番目となっており、口臭で悩んでいる人には、口臭に対して、特別の思いを持っている人も多いと感じている。また、ハリメータを用いた2500人くらいの規模の企業でのある調査では、閾値以上の口臭を17パーセントで検知した。このような口臭症の8割以上は口腔内に原因があり、歯科医師が行う口臭症の取り組みについて講演した。
 口臭症とは、他人が不快に感じる呼気を発している状態だけでなく、他人が不快と感じる呼気を発していると思っている状態も含む。単に匂いがない状態にするだけでは、不十分であり、本人が口臭に関して、気にせずにいられる状態にしていくことが目標となる。

まず、口臭を分類すると、
  ・生理的口臭
  ・病的口臭
   全身原因
   口腔内原因
  ・仮性口臭症
  ・口臭恐怖症
に分けられる。生理的口臭の特徴としては一過性であり、処置としては、治療不必要もしくは、口腔清掃指導のみとなる。病的口臭については、口腔内が原因のものと全身的なものが原因のものとに、さらに分類することができるが、口腔内が原因のものは、舌苔や歯周病に対する処置を進めていくこととなる。また、全身的な原因のものとしては、扁頭炎や、蓄膿、糖尿、腎不全といった原因が挙げられる。続いて、においのレベルが閾値以下であるような心因的口臭は、仮性口臭症と口臭恐怖症とに分類できる。仮性口臭症については、カウンセリングで対応可能であるが、口臭恐怖症となると、統合失調症やうつ病が、原因となることもあり、口臭外来では扱わない。これら、心因性口臭に関しては、心因性単独の場合だけでなく、心因性と生理的なものが重なっている人も多い。

 続いて、口臭の原因となる物質についてであるが、偏性嫌気性菌から産生される、揮発性硫化物が主たる原因となっている。スカトール、インドールは、不揮発性なので、原因物質とはいえないが、においの修飾をすることはあるのではないかと考えている。揮発性硫化物は、硫黄を含むアミノ酸から、細菌によって産生されるものであるが、システインから硫化水素が産生され、メチオニンからは、メチルメルカプタンが産生されるようである。他の揮発性硫化物としては、硫化ジメチルが挙げられる。さらに、その他匂いに関係する物質として、アミン類、カダベリン、アセトアルデヒド、アセトン、アンモニアが考えられる。

 生理的口臭の日内変動についても述べる。起床時、空腹時、飲酒時といった状況が、臭覚閾値を超えるような状態になる時間帯として挙げられる。その他、緊張時も唾液分泌量が減り口臭が増加する傾向にある。口臭の評価に当たっては、この日内変動を考慮する必要がある。つまり、なるべく同条件で評価しないと、来院時によって、適切な評価ができないこととなるからである。具体的には、なるべく起床時の口臭を再現するように努力するように配慮して臨床を行っている。

 当科口臭外来での治療の流れは、まず、予防科受診していただき、その後、口臭外来に紹介し、詳しい問診、診査等を行う。問診であるが、口臭の既往歴が大事になる。具体的には、いつからか、どうして気づいたのか、どうして口臭があると思うのか、などである。口臭の既往歴では、5年とか10年以上の既往歴を持った患者が多い。10年前は口臭があったが、口腔衛生をがんばって口臭がなくなっているという人もいる。他に、口腔内の自覚症状として、口腔内の違和感や舌の違和感を挙げる人もいる。患者が口臭と呼ぶ症状には、口が渇くや、へんな味、舌が痛い、白い、他人から口臭を気にされているようなしぐさがあるといったものも含まれる。これらの感覚が残っていると、実際の口臭がなかったとしても、口臭が気になるといった訴えは解消しない。患者のそのような自覚症状に対する評価の方法として、当科では、つらい気持ちの点数化という方法を用いている。初診では、100点と訴える方もいるが、30点となるところを目標として臨床に当たっている。

 他に問診で確認することとしては、口腔清掃習慣や、使用器具、口臭を軽減するための工夫として何を行ってきたかというようなことがある。

 口臭の評価としては、前述のようにモーニングブレスを再現するのが大事であるが、その評価方法としては、官能検査、ガスセンサー、ガスクロマト、唾液流量、口腔診査などが挙げられる。口臭物質を選択して測定できるものとして、ガスクロマト、ガスセンサー、負荷試験(アンモニアを産生する菌をはかる)などがあり、口臭をまとめて測定は、官能試験、その他の測定法が考えられる。官能試験は、口臭の評価方法の基本であり、臨床上はもっとも大事なものと考えている。口臭測定前の注意として、測定する呼気がモーニングブレスに近似されるように、前日の夜から歯磨きしないように指導している。呼気の採集は、閉口鼻呼吸30秒後行い、人間の鼻で判定で、複数人で判定している。官能試験は、定量化が難しいことが難点であるが、当科では、0〜5までのスコアで、においなし、非常に軽度、軽度(悪臭と認識できる)、中程度(容易に悪臭と判定できる)、強度(我慢できる悪臭)、非常に強度(我慢できない強烈な悪臭)といった、6段階で評価している。ガスセンサーは、揮発性硫化物を感じるセンサーであり、総量が測定される。ガスクロマトグラフィーは揮発性硫化物を分離して測定することができるが、高価であり、メンテナンスも難しい。これらの方法により、定量性に乏しい官能試験をサポートすることができる。当科では、硫化水素、メチルメルカプタン、硫化ジメチルといった揮発性硫化物量で全部あわせて0.25ppmを閾値として、指導している。

 ところで、歯科医師が自信を持って治療できるのは、他人に不快感を与える口臭、測定可能な口臭、カウンセリングで改善できる仮性口臭症といったところになると考えられる。歯周病や、口腔清掃状態、唾液流量から起因する口臭は以上のようなものであるといえるからである。

当科来院の900例の口臭の原因を紹介する。
  ・生理的口臭 TN1 6%
  ・病的口臭
   口腔由来 TN2 69%
   全身由来 TN3 1%
  ・仮性口臭症 TN4 22%
  ・口臭恐怖症 TN5 2%
このように歯科で扱うことが難しい口臭恐怖症に分類されるのは2%であり、ほとんどの口臭は歯科で治療可能であると考えるが、前述のように心因性の因子が混合している患者も多いので、病的因子を除去しても、その後心因性の因子を改善していくのには、さらに治療期間を要することも多い。

 治療方法は、歯科的処置、口腔保健指導、信頼関係が、3本柱となる。これに口臭測定を組み合わせ、治療によって改善したことを示すか、または、口臭のないことを示すことで、更なる信頼関係を醸成する。口腔保健指導に関連して、舌苔除去法についても述べる。 当科では、1日1回、10数回程度、遊郭乳頭より後ろは触らないように指導している。清掃用具としては、タオル、ガーゼ使うが、タオル、ガーゼでは、清掃が難しいし、市販の清掃器具も使う。

 治療を進めていくにおいては、口臭の原因物質を低減できても、心因的な原因による因子は、(当科では、前述のつらい気持ちでスコア化している)改善していくのが、遅れる傾向にある。口臭に関しては、その患者自身で、独特のこだわりを持っている場合が多く、そのこだわりを改善するためには、科学的エビデンスを提示して、心的要因を取り除いていく、術者と患者との信頼関係が大切である。


(学術研修委員会 担当 松井茂和、奥谷浩之、加藤一成)

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